
第56話 なぜ中国と韓国はキャッシュレス先進国になったのか?
(写真=Freer/Shutterstock.com)
前回:タカヤマさんが企画制作部に正式に配属されたので、部長から新社会人が知っておくべきお金の使い方について教えてもらった。
投資はじめました第55話はこちら→
※本記事は2017年3月22日に公開した内容に一部修正を加え、必要な情報を追記したうえで2019年1月9日に再公開しております。
中国と韓国はキャッシュレス先進国
3日前、突然オオタ部長が中国と韓国へ出張した。現地調査とだけしか教えてもらえなかったので詳細は不明。部長のことだから何か面白いネタがあるのだろうと、みやげ話と何か珍しいおみやげを期待しつつ帰国を待っていた。
「今、戻ったぞ~」3日ぶりにオオタ部長の声が響く。
「部長、ここ家ちゃいまっせ~w」とニシカワ先輩が速攻でつっこむ。
「お疲れ様でした。早速ですが部長、何をしに中国と韓国に行ってきたんですか? 教えてください」と冷静に話を聞き出そうとする自分。
「……」タカヤマさんは目を白黒させている。まあ、このノリに合わせるのは新人にはまだ難しいだろう。
「今回は電子決済の現地調査だ。なにしろ中国も韓国も日本よりずっと進んでるからな」と部長が目的を教えてくれた。
「電子決済って、日本でも普通に普及してますやん」とニシカワ先輩が異を唱える。
「いや、日本の電子決済利用率は世界的に見ればかなり低いんだ。一方、中国は電子決済、とくにスマホを利用したキャッシュレス決済では、世界でトップクラスに進んでいるといってもいい。飲食店、スーパー、コンビニはもちろん、街の露店なんかでもスマホで決済するのが当たり前だ」とオオタ部長が驚くことを教えてくれた。
「軽食を売っている屋台みたいなお店でもですか?」半分冗談で聞いてみる。
「そうだ。スマホの支払いアプリでQRコードを読み取って、支払額を入力。パスワードなどで認証をすればOKだ」
「それはホンマに便利なんかな?やっぱり、かざすだけで一瞬で支払える日本の方がええと思いますけど」と先輩が真面目に指摘をする。確かに先輩が言うことも一理ある。
「私も使ってみたが、考えていたより手間がかからなくて便利だったぞ。技術的には日本の方が進んでいるかもしれないが、導入コストを考えるとどうだろうか? 中国のやり方は、専用の読み取り装置やシステムを導入する必要がなく、QRコードを貼るだけでいい。設備投資がまったくいらないというメリットは大きいのではないかな?」
確かに、コスト面ではQRコードを張るだけのほうが圧倒的に有利なのは間違いない。単純でコストがかからないからどんなお店でも導入しやすく、どこでも使えるからユーザーも増えるという好循環が生まれているのか。
キャッシュレスは便利なだけがメリットじゃない?
中国で普及した理由は?
「でも、どうして中国ではスマホ決済がそんなに普及したんでしょうか? 確か中国では「銀聯(ぎんれん)カード」というデビットカードを使う人が多かったですよね? 最近、日本のお店でもロゴをよく見かけるようになりましたし」と、なんとなく知っていた知識で質問する。
「確かに銀聯カードはかなり普及したが、それにとって代わる勢いなのが、ネット通販大手アリババの「Alipay(アリペイ)」と、IT大手テンセントのチャットアプリ「We Chat」を使った「We Chat Pay(ウィーチャットペイ)」だ。これらが急速に広まったのは、どちらも多数のユーザーを抱えていたこともあるが、中国で大きな問題となっている偽札の対策になること、スマホ決済の規制緩和、決済手数料が安いなど、複数の理由が重なったからだといわれている」
「偽札のリスクがほとんどなく、現金が一番信用される日本とは事情が違うんですね」とタカヤマさん。
「そのとおりだ。日本ではあくまでもサブの支払手段として電子決済使う人が多いが、中国ではメインの支払手段になっている場合が多い。スマホがないと生活ができないレベルのキャッシュレス社会になったわけだ。しかも、AlipayやWe Chat Payは決済にクレジットカードが必要ないんだ」
「じゃあ、どうやって決済してるんですか?」
「どちらも銀行口座を紐づけて使うようになっている。銀行と直接繋がっているので入出金も送受金も自由自在だ。銀行から引き出してアプリにチャージしておく、友達に送金する、受け取ったお金を銀行口座に出金する、受け取ったお金をアプリに残しておいて支払いに使う、といったことが自由にできるんだ」
「銀行口座直結は便利そうやな~。クレジットカード会社も必要ないから手数料も安いっちゅーことか」
韓国は国策でキャッシュレス化推進
(写真=ayzek/Shutterstock.com)
「それでは、韓国はどうなんでしょう? 世界で一番キャッシュレス化が進んでいると聞いたことがあります」とタカヤマさんが質問する。
「韓国の場合は、支払いはクレジットカードというのが基本だ。それにチェックカードというデビットカード、電車やバスで使えるプリペイド式のTマネーカードを組み合わせて使っていて、電子決済利用率は世界一といわれている。実際、これらのカードを使えないお店はほとんどないし、子どもがお菓子ひとつ買うときもチェックカードで支払っていたぞ」
「どうして韓国ではそこまでキャッシュレス化が進んだんでしょう?」本当に単純な疑問をぶつけてみる。
「国が経済を振興するために、クレジットカード支払額の一部を所得から控除したり、クレジットカードの利用控えの番号を宝くじにしたり、小売店にクレジットカードが利用できるようにお願いしたりと、国の政策でクレジットカード利用を推進したんだ」
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「韓国は1997年に経済破綻して、経済を立て直す必要に迫られたんだ。そこで個人消費を拡大するためにクレジットカードを利用した。もうひとつは、小売店の脱税対策として、一定以上の売上があるお店には利用記録がしっかり残るクレジットカード導入を義務付けたんだ」
「そんなん、消費が増えても支払えない人も絶対増えますやん。」
「まったくそのとおりで、思惑どおりクレジットカード政策は当たって経済は回復。うまくいったように思われていたが、近年は若年層のカード破産が増えて社会問題になっていて、現在は銀行口座から引き落とされるチェックカードを推進しているという話だ」
「国民が大変な思いをするんじゃいかんよな~」
「まあ、そうともいえるが、成果は上がっているのも事実だ。なんにせよ、日本はこの分野で中国や韓国に遅れているわけだから、学ぶところは多いと思うぞ」
中国と韓国で電子決済が普及しているといっても、その方法も理由もぜんぜん違うということがよくわかった。日本で普及がまだまだ進んでいないということは、そこにビジネスチャンスが眠っている気もする。これは電子決済関連企業の株を買っておくと、面白いかもしれないぞ!(そういうところに気がつくようになったのは成長の証……なのか?)
次回へ続く。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
実在の取材などでご協力いただいた皆様については、
フィクションとしてお楽しみいただきつつ、