
第23話 風力発電の現場を見に行こう!
(写真=pedrosala/Shutterstock)
前回:街中でよく見かける「トランクルーム」や「レンタル倉庫」が、実は魅力的な投資対象だったことを知った。投資はじめました第22話はこちら。
小型だけど大きい風力発電
「突然ですまないが、今日の午後は風力発電を見に行くことになった。ふたりにも来て欲しいので、よろしくな」オオタ部長が突然話しかけてくるのはいつものことだが、今日は内容まで突然だったので戸惑ってしまった。
「はぁ……わかりました」とニシカワ先輩。釣られて自分も「ええ、はい……」となんとも歯切れの悪い返事をしてしまった。
「風力発電って、丘の上に大きい風車がたくさん並んでるヤツですよね?」
「そやな、風力発電を見に行って何があるんやろな」
ニシカワ先輩も目的を計りかねている様子。いったいなんだろう???
――1時間後、某県某駅前
駅を降りると、部長がスーツ姿の男性にあいさつをしている。
「本日、風力発電を案内してくださるスギヤマさんだ」と、紹介された男性は、程よく日焼けした短髪の好青年。これぞ営業マンという外見だ。スギヤマさんに車で案内され、現地に向かう。
車に揺られること30分、風車が見えてきた。遠くから見ると随分大きく見えたが、近づいてみるとそれほど大きくはない。
「風力発電の風車ってすごく大きいイメージでしたが、近くで見るとそれほど大きくないんですね、、、」と、正直な感想を伝える。
「えーとですね、今日ご案内するのは『小型風力発電』なんです。おそらく丘や山の上に巨大な風車が立ち並ぶ光景をイメージされていたと思うのですが、あちらは大規模な風力発電でありまして、私たちが手がけている風力発電とは規模が異なります。学校の運動場と国立競技場くらいの差がありますね」と苦笑いのスギヤマさん。
「あっ、そうなんですね。勉強不足ですみません」
「いえいえ、ほとんどの方が同じ感想ですので(笑)」
「小型っちゅーても、随分大きいもんやなー」と、ニシカワ先輩。
「発電機にもよりますが、高いものでは約27メートル程の高さがあります。大きな風車は100メートルを超えるものもあるので、それに比べれば小さいのですが、それでも十分大きいですよね。どこが小型なのかと私も思います(笑)」
「高さ何メートル以下が小型になるんですか?」
「小型風力発電とは風車の大きさではなく、発電量が20kW以下のものを指します」
「へーそうなんやぁー。じゃぁ、風車を建てるなら、大きい方がたくさん発電できていいんちゃいますの?」
「いえ、そういう訳ではございません。発電量が20kWを超えてしまうと1kWhあたりの買取価格が減ってしまうんです。平成29年度以降での風力発電の買取価格は、20kW未満であれば1kWhあたり55円+税で買い取ってもらえますが、20kWを超えてしまうと洋上風力だと36円+税、陸上風力であると21円+税 (平成29年9月末まで、22円+税)になってしまうんです」
「なんやて!20kW超えたら、買取価格は減ってしまうってか!」と渋い顔のニシカワ先輩。さすが、商売にうるさい大阪人。
「そうなんです。そういった事情もあって、初期投資額を抑えることができ、さらに買取価格の高い小型風力発電への投資が今、富裕層や投資家の注目を集めているんです」
「でも、買取価格は変わってしまいますよね?」
「おっしゃる通り、いつ買取価格が改定されるかはわかりません。たとえば、10kW以上の太陽光発電は平成24年度は40円+税で買い取っていましたが、平成29年度の買取価格は21円+税(10kW以上2,000kW未満)と約半分になってしまいました。しかし、再生可能エネルギーの固定価格買取制度という制度がありまして、20年間は契約時の金額が据え置かれることが決まっています。なので、55円+税で契約すれば20年間はこの金額のままですよ」
初期投資は最低2000万円から
(写真=violetkaipa/Shutterstock)
見事なセールストークっぷりで、今すぐ小型風力発電投資を始めたくなってきたが、いったい初期投資はどれくらい必要なのだろうか? あと、利回りも気になる。
「初期投資はけっこうかかりますよね? 何年くらいで回収できますか?」
「風力発電機本体、土地、設置工事の費用でおよそ2000~3000万円を考えていただいています。また、その他にもメンテナンスなどの維持費もかかりますので、設置場所にもよりますが、年利換算で10%前後、約10年程度で投資分(2000~3000万円)を回収できる計算ですね」
「けっこう回収にはかかるもんなんやなー」
「そうですね。資産を多くお持ちの方でないと小型風力発電への投資を始めることは難しいかもしれませんが、信販会社の融資を活用することで、小型風力発電への投資を始めることも可能ですよ」
「なるほどなぁ。ちなみに風力発電の風力ってどういう計算になってますの?」
「環境省や気象庁、NEDO(技術開発機構)のデータ等を活用しています。もちろん、事前に風が安定して吹く場所かどうかは調査しますが、各事業者の事前のシミュレーション結果は実績と異なることがあります。そのため、一年以上の発電実績がある風力発電機であったり、また発電機の品質管理などのメンテナンス体制などをしっかりと形成している事業者である必要があります。そういったリスクがあることは風力発電へのデメリットと挙げられる点かもしれないですね」
「騒音の問題はどうですか?」
「風車の風切り音やモーター音は問題になりやすいので、注意が必要です。また、風車の回転による影のちらつきも問題になることもあります。ですので、騒音の観点だと基本的に民家がない場所が風車の設置には望ましいですね」
「設置場所を選ぶのって大変そうですね」
「あと、そうだ。初期費用を低く抑えたい方には、風力発電に投資するクラウドファンディングもございますので、そちらであれば小額で投資をすることもできますよ。こちらも同様に言えることですが、投資をした風力発電機がしっかりと発電実績があるものであるか、またメンテナンス体制が整っているか。ご自身で調べることも必要になってきます」
頼みの綱はクラウドファンディング
今回も、最後はクラウドファンディングにたどり着いた。逆立ちしても数千万円なんてお金は用意できない自分は、こういう将来性が期待される案件にクラウドファンディングで少額投資をした方がよいのだろうか。
それはさておき、今日は部長がまったくしゃべらない。どうしたんだろう……? 機嫌が悪いのかな? 考え始めたら気になってしかたがないので思い切って聞いてみる。
「部長、今日はほとんどしゃべりませんが、何かありましたか?」
「いや、息子のサッカーの応援でノドを痛めてしまってな。声があまり出ないので、今日はキミたちに急遽、同行してもらったというわけだ」
「なんやてーw」
「そ、そうですか……お大事にしてください」というのが精一杯だった。
しかし部長が息子さんの応援とは。あの強面で意外にアットホームな一面もあるんだなぁ、と思わず感心してしまった。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
実在の取材などでご協力いただいた皆様については、
フィクションとしてお楽しみいただきつつ、