
第17話 土砂運搬船が投資商品?
給与から天引きされ、簡単には引き出せない「財形貯蓄」。服を買ったり、外食の頻度が多い自分にとって、この制度を利用するとしっかりと貯金ができそうだ。(写真=urbazon/shutterstock)
前回:「財形貯蓄」のことを調べた結果、投資で利益を狙うだけでなく、資産形成のための地道な貯蓄の大切さも知った。投資はじめました16話はこちら。
思いもかけぬ投資先を知る
ニシカワ先輩と一緒に外出する用事があり、東京湾を一望できるコーヒーショップで、ランチをする。景色を眺めていると、沖合では港湾工事が行われていた。
すると突然、ニシカワ先輩が話し始めた。
「知ってるか? ああいう浚渫船も投資対象になるんやで?」
「えっ? 今、『なに』が投資対象になるっておっしゃいましたか??」
「“しゅんせつせん”や。港や湾の底にある土砂を取り去る土木工事を浚渫(しゅんせつ)っていうて、その土砂を運ぶ船が浚渫船や。土砂運搬船ちゅーらしいんやけど、アレを買うて土木関係の会社にリースするってな感じや。」
「へ~、初めて知りました。というか、世の中の人のほとんどが知らないと思うのですが、先輩はなんでそんなことを知っているのですか?」
「地元の知り合いに土砂運搬船に投資をしてるヤツがおるんや。昔から変わったヤツやったけど、ほんといろんな商品に投資してるヤツやわw
いわゆる『オルタナティブ投資』ってヤツだな」
既存の投資先にとらわれないオルタナティブ投資
(写真=Dusit/shutterstock)
帰社後、すぐにパソコンを立ち上げる。
たしか、先輩は『オルタナティブ投資』といっていたな。
オルタナティブといえばロックのイメージがあるけど、投資にもオルタナティブってジャンルがあるのかぁ。
ということで、さっそくGoogle先生で検索してみる……。
オルタナティブ投資
オルタナティブ投資(英:alternative investments)とは、株式・債権などの伝統的な資産以外への投資、または、そうした資産を保有する伝統的投資手法とは異なる手法による投資。代表的な投資対象として天然資源・不動産・未公開株などがあり、投資手法として先物・オプション・スワップなどのデリバティブ取引を駆使するヘッジファンドやマネージドフューチャーズなどがある。
なるほど、今までの投資先の代わりとなるものへの投資だから代替=オルタナティブな投資というわけか。あ、今登場しているサイトの他のページにも詳しい説明が載っている。
オルタナティブ投資とは、船への投資に限ったものではないことはわかったが、きっかけは土砂運搬船、つまり浚渫船だった。
次に、個人投資家の船舶投資について調べてみる。
……が、驚くほど情報が少ない。
基本的に船舶投資は法人向けの投資で、数千万円単位の資金が必要になるらしい。
ということは、資金をたくさん保有している投資家が、船舶投資をするのかなぁ。
減価償却期間の妙
しかし、色々な投資対象がある中で、船舶へ投資するメリットはどこにあるのだろう?
調べてみると船舶投資は短期間で減価償却ができるらしい。
早速、部長に質問してみようか。
「オオタ部長、質問よろしいでしょうか。
船舶への投資のことを調べていたら、『減価償却期間が短い』とあったのですが、どういうことでしょうか?」
「ずいぶん、広い視野を持って投資を調べているんだな。減価償却というのは、固定資産の取得価額を耐用年数に応じて費用按分していく会計上の処理のことだ。一括で購入してもその年の費用に全額計上することはできず、数年に渡って分割して計上することになる」
「取得価額を使える年数で割った分が、毎年の費用に計上できるってことですか?」
「まあ、そういうことだ。厳密には細かい計算のルールがあるが、基本的にはそう考えとけばいい。
それで、中古資産は新品資産よりもずっと耐用年数が短くなる。つまり、中古船を買ってリースに出すと、大きな金額を短期間で減価償却費として計上でき、かつリース料が毎月入ってくるので、いわゆる減価償却の損金算入による資金留保効果というメリットもあって、利回りもいい投資になるんだ。これが船舶への投資の特徴だね」
「ですが、中古船を買うのにはそれなりの資金が必要では……?」
「ニシカワ君の友だちみたいに個人で船を買ってリースする投資家も稀にいるようだが、基本的には法人が手掛けることが多いようだ。“日本型オペレーティング・リース”で調べてみるといいぞ」
「わかりました。調べてみます」
貸せるものなら、なんでも投資対象!?
席に戻って「日本型オペレーティング・リース」を検索してみる。オオタ部長の言うように、減価償却の損金算入による資金留保効果の施策として紹介しているページがたくさんヒットした。
日本型オペレーティング・リースは、組合を設立して投資家から資金を集めて航空機や船舶、コンテナなどを購入する。それをリースに出して毎年のリース代を投資家に分配し、リース期間終了後は売却してそのお金も分配する。これが基本的な仕組みだと理解した。
ということは、先日いろいろ調べた不動産の小口化商品と基本的には同じ仕組みだ。つまり、「購入→賃貸(リース)→売却」という流れが構築できるものなら、なんでも投資対象になるということだろうか。
「投資の世界って奥が深いですねぇ」
とつぶやくと、
「まだソーシャルレンディングで1回しか投資したことないやろぉ。w
ま、お金を使って何かしらのリターンを考えるようにしたら、より投資に向いた頭脳になるかもなあ」
ニシカワ先輩の合いの手が入る。
「そうならニシカワくんはなぜお菓子にお金を使うの?
リターンは体重しかないだろう?」とオオタ部長。
「そんなら、お菓子代も減価償却できないっすかね~」
「・・・・・・・・」オオタ部長
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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フィクションとしてお楽しみいただきつつ、