
第16話 身近な積立投資② 財形貯蓄
毎月コツコツ積み立てると、1年後に積み立てた金額に1ヶ月分の金額が上乗せされた金券や商品券で戻ってくる百貨店「友の会」。一見地味だが、年利換算で15.3%ということを知って驚愕した。(写真=A3pfamily/Shutterstock)
前回:百貨店「友の会」や「旅行」の積み立てのことを知り、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあることを改めて実感する。投資はじめました第15話はこちら
「財形貯蓄」でレッツ財産形成!
朝、日経新聞を読み終えたところで、オオタ部長が来ていないことに気がつく。電車が遅れたのかな? と考えていると、いつものように郵便物を届けにマイコ先輩がやってきた。
「おはようございます」と挨拶をしてみると、マイコ先輩が話しかけてきた。
「おはよう。そういえば積み立てのことをいろいろ調べてたみたいだけど、『財形貯蓄』はやってるの?」
「ザイケイチョチク……ですか?」
「アホやなー、財産を形成する貯蓄やから財形貯蓄って言うんやで。投資、投資というまえに、お金を効果的に貯める方法も知っておかなあかんやろ」
「ニシカワ君、惜しいわね!
正確には【勤労者財産形成貯蓄制度】というのよ」
とマイコ先輩。カッコ良すぎる…
すると、そこにマイコ先輩がメガネをかけた真面目そうな男性を連れてやってきた。ま、まさか、先輩の彼氏!?
「彼は経理のカトウ君! 財形貯蓄に詳しいから呼んできたわよ。じゃあ、カトウ君、あとはよろしくね!!」と足早に去っていった。
目的別に3種類ある「財形貯蓄」
(写真= pogonici/Shutterstock)
「カトウです。財形貯蓄に興味をお持ちだということで、お話を伺いに参りました」
「おぉー、わざわざきてくれてありがとうな。こいつ、財形のこと何も知らんので、一から教えたってや」と先輩。
「かしこまりました。まず一口に財形貯蓄と言いましても、
【一般財形貯蓄】
【財形年金貯蓄】
【財形住宅貯蓄】
の、3種類があります。
一般財形貯蓄は、積立期間3年以上で金額の上限はありません。使用目的も自由で、一部引き出しや解約も自由にできますが、始めてから1年以内の払出しはできないルールがあります。また、税制上の優遇措置がありません」
「……はあ」
「続きまして財形年金貯蓄ですが、使用目的は老後の生活安定のための財産形成に限られます。積立期間は5年以上で、基本的に60歳以降の年金の支払開始まで引き出しも解約もできません。そのかわりに税制上の優遇処置があり、元本550万円までの利子については、所得税と復興特別所得税15.315%、地方税5%の計20.315%が非課税となります。ただし、目的外の払出し(退職等)が行われた場合は、5年間さかのぼって課税されるので注意してください」
「……はい……」まずい、気が遠くなりかけた…。
「そして最後に、財形住宅貯蓄ですが、使用目的は住宅取得の頭金などに限られます。元本550万円までの利子について所得税が非課税になること、目的外の払出しが行われた場合は、5年間さかのぼって課税されるのは財形年金貯蓄と同じです。
説明は以上です。ご質問はありますか?」
「ホンマの銀行員みたいなやっちゃなー。よく細かい数字を覚えてるもんやw」
「お褒めいただきありがとうございます。わたくし、これが仕事でございますので」と銀行員、じゃなかった経理のカトウさん。
必死に質問を絞り出す。
「えー、一般財形貯蓄は所得税の優遇がないんですよね? それじゃ銀行預金と変わらないのでメリットがありませんよね? もしかして、金利が高いんでしょうか?」
「金利は普通預金よりは高く、定期預金と同じくらいだな」
突然頭上からオオタ部長の声が響く。驚きすぎて一発でシャキッとした。一体いつの間に……。
「それでは、定期預金でいいのではないでしょうか? 税金も同じなわけですし……」驚いたことを悟られないよう、冷静に質問する。
「税制面の優遇はないかもしれないが、毎月自動的に給与から天引きされるので強制的に貯金できるのがメリットだ。毎月、衝動買いとかお金をよく消費してしまう人にとっては、良い商品やと思うぞ。それと、引き出すための手続きに時間がかかるから、気軽に引き出せないのも、ある意味メリットかもしれんな」
な、なるほど……
言われてみると、
毎月、服やら外食やら、よくお金を使っている…
「補足いたしますと、我が社には【財形給付金制度】があります。毎年『一定額』を積み立てて7年経過するごとに元利合計額が財形給付金として支給される制度です。つまり、毎年会社が7年間積み立てに上乗せしてくれるわけです。給付金は一時所得として課税されますが、50万円までは非課税、超過分は1/2が課税対象ですので、同額を給料としてもらった場合と比較すると税金面で非常に有利です。」
「一定額っていくらですか。1万円くらいですか?」
「我が社では一年で最高10万円ですので、7年ごとに最高70万円と利子が支給されます。ちなみに、制度上、最高で毎年10万円までと定められており、そもそもこの制度がない会社もありますので、待遇としてはかなりいいのではないでしょうか?」
「え……」(絶句)
「入社時にきちんと説明させて頂いたと思うのですが」
資産を貯めることの重要性
「資産形成のためにはこうした制度を利用することも大事だということがわかったか? 投資は失敗するリスクがあるが、貯蓄は基本的にリスクはほとんどないからな。大きく増やすことばかり考えるのではなく、コツコツと貯めることも重要なんだ」
「そうですね。資産を増やす投資のことばかり考えていましたが、足元を固めるためには貯蓄も必要ですよね。よく、わかりました」
「カトウ君、忙しいところすまなかったね。マイコくんにもよろしく!」と、満面の笑みのオオタ部長。それって、もしかして……。
「なんや、タイミング良すぎると思ったら、部長が影で糸を引いとったんか。こりゃ一本とられたわ」
部長にまんまとしてやられたが、おかげで財形貯蓄のことを知ることができた。手を変え、品を変え、いろいろなことを教えてくれる部長の心遣いに感謝しつつ、さっそく財形貯蓄を始めようと心に誓うのだった(単純)。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
実在の取材などでご協力いただいた皆様については、
フィクションとしてお楽しみいただきつつ、