
年収がどの程度から法人化するべき?
(写真= kan_chana/Shutterstock.com)
所得税の税率は所得が増えれば増えるほど税率が上がる仕組みになっています。
資産管理法人を設立するべきかどうかは、所得が増えたタイミングのほかにもいくつかポイントがあります。
(1)不動産所得がプラスの場合
不動産所得と事業所得、総合課税の譲渡所得、山林所得は、所得の金額の計算上、損失が生じた場合には、他の所得から損益通算(マイナス分を他の所得から差し引くこと)を出来る制度があります。不動産投資を行なっている人にとって所得税の節税ができる仕組みは、まさにこの損益通算にあるといえます。
そのため、そもそも不動産所得がプラスになっているということは、給与所得などの各種所得に不動産所得のプラスを合算して所得税の計算を行なうことになりますので、不動産所得がプラスで、年間の給与の総額が660万円以上の場合は法人化を検討する余地はあります。
これは、課税される所得金額(総所得金額-所得控除額)に対して330万円を超えた部分からは、所得税が20%、住民税が10%かかるためです。
給与収入が660万円の人の場合、給与所得控除、社会保険料控除などの各種控除を差し引いた後の金額が330万円程度になります。
これに不動産所得が追加されてしまうと、不動産所得で増えた部分は税率が所得税と住民税を合わせて30%の負担となり、個人で所得税と住民税を納め続けるよりも、法人化をして法人と分散したほうがよいと考えられます。
課税される所得金額の計算方法
① 給与収入 660万円
② 給与所得控除 660万円×20%+540,000=186万円
③ ①-②=474万円
④ 社会保険料控除、生命保険料控除、基礎控除など 約140万円
⑤ ③-④=334万円
(2)将来、値上がりが期待できる不動産を購入する場合
将来、値上がりが期待できる不動産を投資の目的で購入する時は、売却するときにかかる税金を考慮すると、法人で購入した方が売却時の税金を抑えられる場合あります。
個人で不動産を購入して、売却をすると譲渡所得となり、その不動産の所有期間に応じて所得税の税率が異なります。
・長期譲渡所得(所有期間が5年超)・・・所得税15% 住民税5%
・短期譲渡所得(所有期間が5年以下)・・・所得税30% 住民税9%
法人の実効税率(法人税、法人住民税、法人事業税を合わせた税率)は、資本金が1億円以下の法人の場合は、年間の所得が800万円までで23%程度、800万円を超えた部分からは33%程度なので、いずれにしても、個人で短期譲渡所得の申告をするよりも税額は低く抑えられることになります。
購入してから5年以内の短期的な視点で投資をするときは、法人で購入するというのも検討してみると良いでしょう。
(3)個人で所有している物件の土地割合が上がってしまった場合
個人の不動産所得の計算を行なう上で、物件の購入時に借入れを行なったときの借入金の利息は当然必要経費に算入されます。
ただし、不動産所得がマイナスになったときの、損益通算の対象となるマイナスから除かなければならないものがあります。
それが、保有している物件の土地に対する借入金の利息部分なのです。
区分所有のマンションなどは、物件価格に対して土地の割合が低いので、そこまで影響は無いのですが、一棟ものの物件を購入した場合、その物件の所在地によっては、物件価格に対して、建物よりも土地の割合が高く、借入金の利子のほとんどが損益通算の対象とならない利息となってしまう場合があります。
これにより、最終的には損益通算の対象となるマイナスがなくなってしまったり、マイナスの金額が大幅に圧縮されてしまったりすると、所得税の節税効果が薄れてしまうのです。
一棟ものの物件を個人で購入するときは、物件購入後の所得税の確定申告のシミュレーションをしてみることをお薦めします。
例)土地購入のための借入金利息が損益通算の対象とならない金額
【執筆者プロフィール】
山田麻美(やまだあさみ)税理士
商業高校に進学し、高校3年生のときに日商簿記検定の1級に合格したことで、税理士試験の受験資格を得られたことがきっかけで税理士を目指す。
法人税法、相続税法、消費税法の国税3法を取得し、税理士登録。
個人の税理士事務所から税理士法人での実務経験を経て2014年2月に独立開業し、
中小企業経営者の税務顧問をはじめ、不動産投資家及び地主の節税対策、相続税の生前対策を得意としている。
お問い合わせ先:
山田麻美税理士事務所
住所:東京都新宿区西新宿3-9-3第三梅村ビル303
TEL:03-6304-2304 FAX:03-6300-0578