
資産管理会社(法人税)と個人税制の比較
(写真= Patricia Soon/Shutterstock.com)
資産管理会社を設立して利益を得ると、法人税を納める義務が生じます。個人の所得にかかる税金とは、どのような違いがあるのか比較すると、次のようなポイントがあります。
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(1)資産管理会社にかかる税金
資産管理会社を設立して利益が発生すると、その利益に対して「法人税」、「法人住民税」、「法人事業税」を納める義務が生じます。なかでも、「法人住民税」は、赤字であっても毎事業年度ごとに7万円(※)の納税が必要です。
(※)資産管理会社の所在する市区町村によって、多少の金額の変動があります。
(2)個人の所得にかかる税金
個人の収入に対しては所得税が課税されます。所得税は、不動産所得だけではなく、「給与所得」や「事業所得」など10種類の所得に分類され、1年間(1月1日から12月31日まで)に得た総所得金額から所得控除額(社会保険料や生命保険料の支払による控除や、扶養している家族がいる場合の扶養控除などが該当します)を差し引き、これに所得税率を掛けて計算します。
所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されています。所得金額が大きくなればなるほど、税率が引き上がる仕組みとなっています。
(3)不動産所得の計算方法
資産管理会社を設立する場合、個人の「不動産所得」の金額との計算の違いがポイントになるため、不動産所得の計算方法について詳しく解説します。
不動産所得の計算方法は、次の算式で成り立っています。
「総収入金額-必要経費」
青色申告の承認申請書を提出している場合は、この金額から「青色申告特別控除額」をさらに差し引くことができます。
必要経費には、不動産所得の収入を得るために必要な、直接かかった経費をいいます。
租税公課 |
アパートやマンション、その敷地にかかる「固定資産税」など。 |
借入金
利息
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物件購入時に金融機関から融資を受けた場合、その借入金の利息 なお、借入金の利息であっても、経費にならないものもあるので注意が必要です。 |
損害
保険料
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物件が加入している「火災保険」や「地震保険」など。 |
減価
償却費
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建物の構造や用途によってあらかじめ決められた年数で費用処理します。 |
修繕費 |
物件の維持管理に必要な壁紙の張替えやペンキの塗り替えなど なお、工事内容によって、物件の価値が向上した場合や、耐久性が高まるような工事を行なった場合は「修繕費」とはならず、「資本的支出」として減価償却の対象となります。 |
管理費 |
物件の管理会社へ支払う管理費や修繕積立金。 |
では、以下のような経費はどうでしょうか。
「所有している物件を見にいくためにかかった交通費」
「物件の管理を行なっている不動産管理会社へのお中元」
「不動産投資家向けの交流会の参加費用」
これらは、不動産収入を得るためにかかった経費とはいえませんが、不動産を所有していなかった場合にはかからなかったものや、将来の不動産収入につながるような経費であることが考えられます。
不動産所得に起因して発生した経費であることを納税者が証明できれば必要経費として差し支えないでしょう。
この場合、領収書を保管しておくことはもちろんのこと、あとから見返したときに「何のために使用したのか」がわかるようなメモ書きも残しておくようにしましょう。
(4)法人税の計算方法
法人税は法人の利益(所得)に対して課税されます。
法人の所得の計算方法は「益金-損金」と計算され、算式だけ見ると、不動産所得を計算するときの「総収入金額-必要経費」と同じだと感じるかもしれません。
大きく異なる点は、以下の2点です。
・税率
法人税の税率は、資本金が1億円以下の法人の場合では、所得金額が800万円以下で15%、800万円を超える部分に対しては23.2%です。
法人税以外の法人住民税や法人事業税を考慮した「法人実効税率」という割合でみても、資本金が1億円以下の法人であれば約23%もしくは約33%程度となり、個人の所得税の最高税率よりも低い割合となっています。
・経費の対象となる範囲
法人は、そもそも営利を目的として設立されており、存在している限り事業を継続するために活動を行っているとみなされています。
つまり、法人の事業活動に伴って発生する経費は、不動産収入から得られているかどうかに関わらず、法人の経費として、収入(益金)から差し引くことができます。
個人の不動産所得を計算するときに必要経費となる経費はもちろん、法人税の計算上、経費(損金)として認められる範囲の方が明らかに広がります。
(5)法人を設立することで得られる個人の所得税の節税となる仕組み
個人の所得税は、所得が増えれば増えるほど税率が高くなる、超過累進税率が採用されています。
一方、法人の法人税実効税率は最大でも約33%程度であり、個人で得た収入を法人に分散することで、税率を引き下げられる可能性があります。
ただし、法人を設立するためにかかるコストや、法人の所得がマイナスでも、法人住民税の均等割額7万円は毎事業年度発生します。
これらを考慮しても、個人の所得税の金額を引き下げる効果があるかどうか、慎重に検討してから法人を設立するようにしましょう。
【執筆者プロフィール】
山田麻美(やまだあさみ)税理士
商業高校に進学し、高校3年生のときに日商簿記検定の1級に合格したことで、税理士試験の受験資格を得られたことがきっかけで税理士を目指す。
法人税法、相続税法、消費税法の国税3法を取得し、税理士登録。
個人の税理士事務所から税理士法人での実務経験を経て2014年2月に独立開業し、
中小企業経営者の税務顧問をはじめ、不動産投資家及び地主の節税対策、相続税の生前対策を得意としている。
お問い合わせ先:
山田麻美税理士事務所
住所:東京都新宿区西新宿3-9-3第三梅村ビル303
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