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平成30年度事業承継税制改正のメリットと留意点

 平成30年度の税制改正で事業承継税制の特例制度(特例措置)が創設され、従来の事業承継税制(一般措置)に比べ大幅に要件が緩和されました。今回は中小企業の自社株式を円満に後継者に引き継いでいくため事業承継税制の特例措置について概要をお伝えします。

目次[非表示]

  1. 1.事業承継税制とは?
    1. 1.1.(1)一般措置の概要
      1. 1.1.1.②承継パターンの拡大
      2. 1.1.2.③雇用確保要件は実質的に撤廃
      3. 1.1.3.④相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
      4. 1.1.4.⑤事業継続が困難な事由が生じた時の猶予税額の減免

事業承継税制とは?

(1)一般措置の概要

 後継者が中小企業である非上場会社の株式を先代経営者から贈与又は相続・遺贈により取得し、その会社を経営していく場合には、贈与税又は相続税の納税が猶予され、その後、後継者の死亡など一定の事由が生じた場合には、猶予されている税額が免除される制度です。

 納税猶予額は、贈与税は株式数の3分の2を上限としてその価額の100%、相続税は株式数の3分の2を上限としてその価額の80%で、株式は議決権に制限がないものに限られています。

 会社、後継者、先代経営者にはそれぞれ適用要件があり、会社は都道府県知事の認定を受ける必要があります。

 なお、贈与税の納税猶予の適用を受けている場合、贈与者である先代経営者に相続が発生すると納税が猶予されている贈与税が免除されますが、その納税猶予の適用を受けた株式を贈与時の価額で先代経営者から相続により取得したものとみなして相続税が課税されます。その際に、都道府県知事の確認を受けることで、相続税の納税猶予の適用を受けることができます。

 適用後は贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間は平均8割の雇用維持など厳しい一定の要件を満たす必要があります。また、5年経過後であっても株式を継続して保有するなど一定の要件を満たす必要があます。適用後に取消事由に該当した場合には、納税猶予されている税額の全額又は一部を利子税とともに納付しなければなりません。


 一般措置は対象株式数が2/3を上限とされていますが、特例措置では議決権株式の全てが猶予対象となります。また、相続税の納税猶予割合が80%から100%に拡大されましたので、最大事業承継にかかる金銭的な負担はゼロとなりました。一般措置では、最大でも全体の約53%程度(2/3×80%)しか納税猶予とならなりませんので非常に魅力的です。


②承継パターンの拡大

1.後継者は最大で3人まで可能

 一般措置では、後継者は1人のみでしたが、特例措置では最大3人への承継も可能となりました。ただし、複数人で承継する場合、全員が特例承継計画に記載された代表者であることなど一定の要件を満たす必要があります。事業承継においては、後継者は1人とすることがセオリーですので、後々のトラブルなどを考えると後継者を複数とするか否かは慎重に考えなければなりません。


2.先代経営者以外からの承継も納税猶予の対象

 改正前の事業承継税制では先代経営者1人のみからしか認められておりませんでしたが、複数の株主から取得する株式についても適用対象となりました。

 株式が分散しているケースなど改正により適用できる場面がふえています。しかし、後継者は贈与者等の相続に参加することになりますので、適用にあたっては慎重な対応が必要です。

 なお、この改正は一般措置についても適用されることになりました。


③雇用確保要件は実質的に撤廃

 一般措置では、承継後5年間は従業員の平均80%以上の雇用を確保する必要があります。特例措置では、この要件を満たさない場合でも、認定経営革新等支援機関の意見が記載されている書類を都道府県に提出することにより引き続き納税猶予を受けることができます。この雇用確保要件が実質的に撤廃になったことは非常に大きな改正です。


④相続時精算課税制度の適用範囲の拡大

 後継者が20歳以上で贈与者が60歳以上であれば、贈与者が親族外であっても後継者は相続時精算課税の適用を受けることができることとなりました。万が一、取消事由に該当した場合でも負担を軽減することができます。


⑤事業継続が困難な事由が生じた時の猶予税額の減免

 承継から5年経過後に事業の継続が困難となり、株式を譲渡する場合や合併等またはその会社を解散する時に一定の要件を満たしていると、その困難となった時の評価額を元に税額の再計算を行い、その差額は免除されることとなりました。これまでは、廃業時も多額の納税が生じてしまう可可能性があったのですが、今回の特例措置ではそのリスクも軽減されています。


 特例措置は一般措置に比べ非常に使い勝手がよくなりましたが、遺留分の問題や事業承継税制を適用することによる制約などが生じることも考えられます。

 現在の自社の状況と未来像をよく考え、他の事業承継対策とのメリット・デメリットと比較し、制度の内容を充分に理解したうえで適用することが重要です。


特例措置と一般措置の比較

         
特例措置             
一般措置
事前の計画策定等
2018年4月1日から2023年3月31日まで
の5年以内に特例承継計画の提出が必要
不要
適用期限
2018年1月1日から2027年12月31日まで
の10年以内の贈与・相続等が対象
なし
対象株数
全株式              
総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合
100%
贈与:100% 
相続税:80%
後継者
最大3人
1人


承継者  
先代経営者を含む複数
先代経営者を含む複数(改正)

雇用確保要件

承継後5年間平均8割の雇用維持が満たせない場合でも、その理由を記載した書類を提出することにより納税猶予継続
承継後5年間は平均8割の雇用維持が必要
事業継続が困難な事由が生じた場合の免除
再計算し差額を免除
なし
相続時精算課税の適用
60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 
60歳以上の者から20歳以上の推定相続人・孫への贈与

出典:国税庁資料一部修正


【執筆者プロフィール】

木村英幸(きむらひでゆき) 税理士

中小企業の事業承継対策を中心に実務を行っており、相続・事業承継対策、相続税申告、税理士からの相談対応など資産税を中心とした税務コンサルティング業務に従事している。

【著書】

顧客をミスリードしない自社株承継の実務(共著、税務経理協会) 他


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